湖畔の波の風

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湖畔の波の風

一人と一人が墓の前で、 涙を流して笑っていた。 いつも目の前で笑ってくれた誰かの前で、 肩を抱きながら泣いていた。 なくして初めて知った。 失ったものの大きさを、 近くに常にあったものの尊さを、 嘆きに晒された二人は、 夢を求めた。 もう一度だけ会いたいと、 叶わないはずの願を、 木の下で願っていた。 そして叶えられたんだ。 感情を封じられ、 残りの生を賭して その先の安住と たった一つの触れ合いとを天秤にかけて、 花の名前を呼びながら、 自分達が慈しんだ名前を呼んで、 墓前の前には本と小さなケーキ 今日は何時まで居てくれるだろう。 何時まで覚えててくれるだろう。 残っていて欲しい。 だけど幸せになって欲しかった。 あの時も、彼女達は泣いていたから、 今日も私は空で見ている。 片方向の投げ掛けを、 届かなくても、通じなくても、 一人と一人と一つは繋がっている。 風が吹いて頁をめくり、 そこには一つだけ、 したためられていた。 彼女だけの願望が、 叶えられたその物が、 それを読むものはもういない。
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