逸話の中の童

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何から話そう 記憶のない頭を 巡らせて 幾度となく、 毎日のように もう過ぎてしまった 膨大な時間を置いて、 今こそ話そうと声を出す。 話せば話そうとする程に、 涙はこぼれ、頬は朱り、 問いかけることもままならず、 やっと声に出たのは、 「あのね…あのね…」 口に出来るのはそれだけ しゃくりあげながら 涙でぐしゃぐしゃにしながら 真っ白な世界はその声を拾い上げ、 なにもない世界を色づける。 彼女の視界のなかだけの世界を、 一人よがりの空間だけを、 戻る記憶は心という歯車を働きかける。 その時、彼女は生きていた。 相対する二人の男女は、 感情を顕にはしなかった。
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