逸話の中の童

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そして戻る。 自分の居るべき所へ、 それは、 どこか知らない世界。 ふわりふわりと 昇る国。 それは天の国か。 はたまた空に消えるのか。 彼女達は、 少女の父と母だったものは、 それでもなお無表情を貼り付けていた。 そして、 強張ったからだを動かす。 やっと取れた行動は 腕を伸ばし手を伸ばすことだった。 大事な何かを探すように、 手繰り寄せるように、 ただ指だけが望みを訴えた。 一瞬の時さえあれば届く距離に、 やっと手が触れようとしたとき、 少女の姿は変わり舞い上がる。 泡の姿でふらりふらりと、 指が触れた泡は消える。 まるで夢のように、 パチンと弾け 溶け消える。 指を伸ばした顔なき者は、 ゆっくりと腕を下ろした。 二人の顔は、 やはり無表情のままだった。 そして、呆然と花の名前を呼んだ。 何文字にも満たない 何年も呼び、幾度となく慈しんだ そんな言葉を呼んだ。 白い世界に二人が取り残る。 薫りが漂う。 春の初めの初々しい桜の匂いが 誰知ることもなくただただ残った。
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