小さな頃に呼んだ絵本の話をしよう

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小さな頃に呼んだ絵本の話をしよう

これは名前も、いつ読んだのかも、 分からない不思議な絵本の話。 一人の子供がいた。 嘘つきで、気紛れで、 まるで猫みたいな子供がいた。 懐く事のないその子供は、 その身を人に預けることを知らず それ故か愛されることを知らなかった。 猫は愛されるのに、 猫もどきは愛されないと、 子供は思った。 だからその子供は猫になった。 愛されたかったから、 だから子供は猫になった。 そして、猫のように暮らし始めた。 その時は猫であって、 猫ではなかった。 自分は人で猫ではないと 自分も知らない意識の外側で、 そんなことを考えていた。 それでも猫は猫であり続けた。 人に擦り寄い、餌をもらった。 鳴き声をたてて、頭を撫でてもらった。 路地裏の塀の上を好んで歩いた。 木陰の下で一日を過ごした。 いつしか猫は忘れていた。 長く猫であるが故に、 猫であろうとしたために、 人に愛されるということを、 たったひとつの願いを、 銀色の瞳の中で枯らしていた。
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