逸話の中の童

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立つのは一人の子供、 猫の仮面を被った子 子供は開き落ちた本を拾い、 それを胸に掲げ 優雅に腰を曲げて礼をする。 道化のように、 滑稽な程に恭しく、 それは突然くるりと体を翻す。 空気が震える音がした。 子供は本を上に投げる。 私がそれを目で追ったとき 狐面の子供が手を打ち鳴らす。 一音の乾いた音が響いた。 パンッ。 本はゆっくりと停止し、 次に木の葉のように落ちる。 白い地面に自分の姿を落とし 頁を開き始める。 パララ、パララ、パララ 連続する音が響く。 その度に、 本の平織りの紐がほどけ、 紙が無作為に飛び散った。 やはり紙も、 ある高さまで上がったあとに、 木の葉のように落ちる。 活字の記されていない まっさらな紙が、 崩れて行く、 紙は白い花弁に 形を変える。 そして空中にゆらりゆらりと 飛んでいる花弁は、 下の私に向かって落ちてくる。 私は落ちる花弁の渦中にいた。
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