逸話の中の童

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そのなかは、 日溜まりの匂いがしていた。 フワッと音がなるような 安心するような一瞬だった。 そして一瞬にして消え失せる。 通り過ぎた後に残ったのは、 一つを除いて 変わらぬない世界。 子供も花弁も、 消えていた。 そして視線の先に、 子供と花弁の代わりに 男と女が 感情を出さずに、 前に現れていた。 表情を出すことなく、 ただ二人は立っていた。 記憶の片隅の、 欠片が疼く。 そして気づいた。 その人たちはたった一つ残った記憶の なかにいた人だった。 どこからともなく 泡がまた下から上がる。 互いの間に泡が浮き、 それが割れた。 泡の中から何かが出てくるように、 私の頭に記憶がよぎる。 それは薄く靄のかかった光景だった。
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