東京に

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 本来なら家賃10万8000円のこのマンションだが、この106号室だけ敷金ゼロ。礼金ゼロ。  そして家賃……そのお値段、なんと  1・万・円。  本来の10分の1と言う破格の家賃。  それがいったい何を意味するのか、それは言うまでもないだろう。  が、それが一体なんだというのだろうか。  最寄り駅まで歩いて2分。俺が来週から通う専門学校に電車で一駅。という非の付け所のない立地だ。 「いやぁ、学生さんが安いとこ探すもんですから一応出してるんですけど、その物件あまりお勧めできませんよ」  俺がマンションの紙を見ていると、後ろから社員っぽい若いお兄さんが心配そうに口を挟む。 「うちとしても誰かに住んでもらった方が劣化もしにくいですし助かるんですけど、流石にもう5人くらい同じようなこと言ってるんですよね……」 「同じようなことって?」 「まあ……金縛りとか、物音が聞こえたりとか、ですかね……。そんなもんですから皆さん1か月経たないうちに引っ越してしまうんですよ」 「へぇ……」  心配する社員さんを横目に、改めて部屋の情報が載った紙に視線を落とす。  所謂いわくつき物件といったところだ。  金縛りや物音が聞こえる。それも一人でないとすれば、ほぼ確実に出るのだろう。     
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