16章 帰国の渡

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・ 愛美は自分からしてしまった恥ずかしさに瞳を逸らし、顔を俯かせながらザイードに囁いた。 「──…待ってる…っ…ちゃんと待ってるから……早く迎えにきて……っ」 「……っ…」 ザイードの掴んでいた手をゆっくりとほどいていくと愛美は自らザイードに背を向けて輸送機に乗り込んだ。 機体の上についたプロペラがぐるぐると回り始め、愛美の乗った輸送機の入口が閉まり始めた。 巻き起こる風に煽られてザイードの白装束がはためく── 高さを増していくその機体をザイードは下からずっと見上げていた。 小さな窓に張り付くようにして覗く愛美が微かに望める── 泣いている── 確かにマナミが泣いている── 直ぐに行く── お前が待っていてくれるなら…… 俺は必ず迎えに行く── マナミ── 次に逢うときはお前はもう二度と俺の腕の中以外では眠らせない── 次に逢った時はマナミ…… お前は イブラヒム= ザイード・ムスターファの妃だ── 高く小さくなった機体を見つめるザイードの顔つきを見て、ターミルは微かに満足そうな笑みを浮かべていた──。
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