16章 帰国の渡

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「小さな国、一つ買える価値が御座いますから何とぞ無くさぬように……」 ターミルに後ろからこそっと言われ、愛美は目を丸くした。 「えっ、えっ…じゃああたしが持ってたらヤバっ…」 慌てて抜こうとした愛美の手をザイードは止めた。 「とても大事なものだ──…だから直ぐに行く──…指輪も…マナミも──…直ぐに…迎えに」 「……っ…」 ザイードは言いながら愛美を強く抱き締めた。 「それまで待ってろ──…っ…待っててくれっ」 「───…」 愛美は切実な声音でそう囁いたザイードの背中に腕を回していた。 嬉しくて結んだ唇がどうしても震えてしまう── 控え目ながらもそう口にするザイードの飾らぬ言葉に愛美は無言のまま何度も頷いていた。 そろそろ輸送機に乗り込むようターミルに促される。 だが頷いた愛美の腕をザイードはつい引き止めて掴んでいた── 「───ザイード様…」 「すまん……っ…つい」 ターミルに呆れたように声を掛けられてザイードはその手を離し、顔を逸らす── 思わぬザイードのそんな仕草に愛美は面食らった表情を浮かべると直ぐに綻ばせていた。 愛美はザイードの襟元を急に掴む。それに驚いて前のめりになるザイードの肩に腕を回すと愛美はザイードに軽く口付けた── そっと離れていく唇。 軽るく触れるだけのキスに何故か熱い溜め息が吐かれる──
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