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涙で濡れた瞳のまま、愛美はゆらゆらと揺れ始めたターミルに目を向ける。
お国がらの民謡曲でもアレンジしたのだろうか?
東洋らしいメロディーが微かに聞こえてくる──
何やら摩可不思議な動きを始めたターミルに愛美は卒倒しそうな勢いで笑い出していた。
泣き笑いに貰い泣き──
色んな涙が溢れてくる。
別れの前日をこんなに思い出深い物にしてくれるなんてなんて人達なんだろう──
異国の地に一人旅──
それは数々のアクシデントと体験を経験させてくれた。
こんな旅がまたできるだろうか──
この国以外に訪れて、こんな素敵な人達にまた出逢えるだろうか──
そしてまた……
あの人みたいな人に恋をすることがあるのだろうか──
愛美は目尻に滲む涙を笑いながら指先で拭う。
「ありえないな……」
愛美はそんな言葉を小さく呟いた。
ザイードみたいに強引で、そして無理矢理全てを奪ったのにこんなに素敵な思い出を沢山くれた
ありえない──
たぶん
ザイードみたいな人とはもう二度と巡り会えない──
“毎日お前の幸せを祈ってやる──”
帰ることを決めたのにこんな言葉を最後の最後にくれるなんて──
忘れたくても忘れられる筈がない……
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