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◇◇◇
「──…忘れ物はないな…」
愛美は聞かれて頷いた。
忘れるほどの荷物の量ではない──
街中から程近いサンドリアージュの空港の前で愛美は国境警備隊のジープから降ろされた。
さすがにこの日まで泣きたくない──
そう思った愛美は皆の見送り全てを断った。
アサドにも断りを入れた愛美は空港前までの送りだけをお願いしてアサドに礼を言う。
愛美に見送りを断られたアサドは警備作業に就いている隊の巡回のため、今日は迷彩服を着用していた。
またまたこの姿も乙なものだ──
カッコいい人は何を着てもカッコいい。
この人は崩れない男だな……
愛美はそう思いながらアサドを眺めた。
「今日は泣かないのか?」
ふっと笑いながらアサドは言った。
「もう十分です」
やっとこさ腫れの引いた瞼を見開きアサドに訴える。アサドはそんな愛美に少し微笑んだ。
「なんだ、泣かないのか?」
「泣きませんよ──」
愛美は冗談交じりにベェ、と舌を出す。
そうして笑う愛美をアサドは見つめた。
「なんだ──…それじゃ俺がマナミを抱き締めるきっかけがないな……」
「───…」
愛美はふいに言われた言葉に目を見開いていた…
急にそんなことを言われて何故か切ない瞳で見つめられる。
ああ……
ヤバイ──
極度の動悸、息切れがっ…
ついでに目眩も起きそうだ。
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