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ちょっとフラりと仕掛けた愛美をアサドはしっかりと抱き締めていた。
「あれ、あたし泣いてないよっ──」
焦って腕の中でもがいた愛美をアサドは強く抱き締める。
「悪い……ちょっと俺が泣きそう」
「えっ!?…っ…」
そんなことを言われたら抵抗するにデキナイ──
硬直した愛美はしばし、アサドに静かに抱き締められたままだった──
「マナミ……」
首に潜り込んだアサドの声が名前を呼んだ。
「日本に帰って落ち着いたら空のデートに誘う……」
「……っ…」
抱き締めながら語りかけるアサドの低い声音に少し胸が痺れる。
女はこんな雰囲気にどうしても弱い──
密かな熱を含むアサドの呼吸。その熱さに愛美は戸惑いを隠せないでいた。
「じゃ、──」
アサドはそう言って急に愛美を腕から解放していた。
アサドは愛美の頭を撫でる。
「……帰ったら楽しみに待ってろよ」
屈託ない笑顔で言われて愛美は思わず頷いていた。
名残惜し気に背を向けたアサドを愛美は見送る──
均整の取れた後ろ姿はブーツの足捌きもかっこいい。
ジープに乗り込み軽く砂煙を上げて立ち去るその車に愛美は手を振る。
そして大きな深呼吸をしていた。
「はあーっ…もうっ…最後の最後にドキドキさせてくれるんだから…っ…」
言いながらホッと一息ついて肩の力を抜く。そうして自然と笑みを浮かべると愛美は深呼吸を軽く繰返し、空港の中へと足を向けた。
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