第一章 1

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第一章 1

 夢を見た。昔の夢だ。  九歳の時に通っていた教室。  空が赤ばみだした放課後。  三十ある机の内、一つだけこかされている机。  ゴミがつめられたランドセル。  刃物で切られた教科書やノート。  それらの前で突っ立つ俺。隣に立ち、難しい顔をする脇田と西山。  時間が止まったように、誰も動かず、しゃべらず、けれど、本当は止まっていない時間はちゃくちゃくと進んでいく。 「一日一善をするといいんだって」  西山がぼそっと呟く。 「心がけしだいで人の見る目も変わるって奴だ」  脇田が唇を伸ばす。  たぶん、俺は一人じゃ乗り越えられなかった。  世間の目や陰湿ないじめに潰されていただろう。  俺にとって、こいつらは良心だ。  まっとうな環境で育った、まっとうな人間の、まっとうな意思表示ができるこいつらは、まっとうじゃない俺にとって、灯台の明かりだ。  その光があれば、俺は道を踏み外すことはないと信じていた。
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