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向井は背後から羽交い絞めにされた上に、口を押さえられ、学ランを脱がされかけていた。
向井の真正面で、高村が俺を振り返る。
「何だ、君か。陸上部の落ちこぼれ君」
俺は一歩一歩踏みしめて進んだ。
「僕達は部活をしているだけさ。向井君のね、色んな表情を撮りたいと思って」
涙が溜まった目で、向井が俺を見上げてくる。
「向井君も協力してくれてね」
暗雲のような黒い靄が、腹の中に広がっていく。
「だからこれは」
「それ以上くだらねえことをしゃべると、その口、塞ぐぞ!」
ピシリと窓に罅が入り、高村達が悲鳴をあげる。
俺は高村からカメラを奪った。
高そうなフォルムだ。
そのカメラで、向井の周りにいる連中の顔を、片っ端から撮った。
「証拠がないと逃げるだろ、お前ら」
最後に、俺は死ぬ気で、着衣を乱された向井を撮った。
シャッターが光る瞬間、自分の皮膚が焼かれるような痛みが走る。
「な、何を」
高村が恐る恐る声を絞り出す。
「向井と、お前らの今後を話し合う。今は見逃してやるよ。ただし、こいつは預からせてもらう。変なことをしたら、容赦なくぶっ壊す。十秒以内に散れ」
俺は数をカウントしだした。
十、九、八、七と、次第にゼロへ向かっていくように。
高村達は捨て台詞もおざなりに、教室から出て行った。
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