第一章 1

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 そっと腕を掴まれたのは、どれくらい経った後だろう。  俺は丁寧に、汚れをタオルへ押し付けていった。  体を拭き終え、自分の学ランとシャツを脱ぐ。  向井は頬を引きつらせながら、見守っていた。 「俺はお前には成れないけど」  シャツと学ランを、向井の膝にのせる。 「辛さや悔しさなら、少しは共有できると思う」  向井が息を吸い込む。 「俺、俺は」  奴の頬を涙が伝い落ちるのを、俺は俯いて追った。  誰かが言った。  向井学はコウモリだと。  こいつはどこでも良い顔をし、誰にも本心を語らない。  人間であるこいつが、コウモリになったのには理由があるのに、誰も踏み入ろうとはしない。  怖いのかもしれない。  こいつのイメージが崩れていくことが、いつも明るいこいつの闇を見ることが。  けど、俺はあいにく短気だ。やくざの息子だし……。  たださ、残り二年くらいしかないけれど、その間、お前の止まり木になることくらいはできると思う。 「俺達のところへ来いよ。脇田も西山も、お前と友達になりたいんだと」  俺の心が正常な内に、お前と会えたのも、何かの縁だろうよ。
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