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そっと腕を掴まれたのは、どれくらい経った後だろう。
俺は丁寧に、汚れをタオルへ押し付けていった。
体を拭き終え、自分の学ランとシャツを脱ぐ。
向井は頬を引きつらせながら、見守っていた。
「俺はお前には成れないけど」
シャツと学ランを、向井の膝にのせる。
「辛さや悔しさなら、少しは共有できると思う」
向井が息を吸い込む。
「俺、俺は」
奴の頬を涙が伝い落ちるのを、俺は俯いて追った。
誰かが言った。
向井学はコウモリだと。
こいつはどこでも良い顔をし、誰にも本心を語らない。
人間であるこいつが、コウモリになったのには理由があるのに、誰も踏み入ろうとはしない。
怖いのかもしれない。
こいつのイメージが崩れていくことが、いつも明るいこいつの闇を見ることが。
けど、俺はあいにく短気だ。やくざの息子だし……。
たださ、残り二年くらいしかないけれど、その間、お前の止まり木になることくらいはできると思う。
「俺達のところへ来いよ。脇田も西山も、お前と友達になりたいんだと」
俺の心が正常な内に、お前と会えたのも、何かの縁だろうよ。
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