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「どうやって口説いたの?」
西山の開口一番はそんなものだった。
「友達になろうぜって言っただけだって。何回聞いたら納得するんだ、テメエは。てか、近い。うぜえ」
頬っぺたが変形する位、力を込めて押すのに、西山は引き下がろうとしない。
ホームルーム前、向井が俺達の輪に自分から入ってきた上に、そこから出て行こうとしなかったのだ。しかも、西山曰く、俺に対する向井の眼差しが熱っぽいと。
「噂だけど、抱き合っていたって本当? そんなの噂だよね? 噂の一人歩き。噂の一人泳ぎ」
「そうだよ、噂の一人走りだよ」
「噂は一人で走れないって噂、本当?」
「お前、結局俺を信じてねえってその口でちゃんと言ってみろや、ボケ」
パコパコと俺と西山の頭を、大学ノートで軽く叩いたのは脇田だった。奴はコホンと咳払いをし、俺と西山の首に腕を回してきた。
「重大発表がある」
小声に緊迫感があった。
「このままじゃ、林は袋叩きだ」
「は?」
「お前、鈍感だな。気付けよ、この教室の雰囲気。普段と違う色めき方をしているだろう」
「転校生でも来るってか?」
脇田の腕から逃れ、クラスメートを見渡す。
ん?
何で、どいつもこいつも俺を睨んでんだ。
「殺されそうになったら警察にでも駆け込めよ、親友」
脇田と西山が離れていく。
「なっ! ちょっと待てよ。俺、別に何もしてないだろ」
「はいはい。馬鹿は死んでも直らないっと」
お前らご自慢のハモリなんか、今、必要としてないんだよ。
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