第一章 1

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「林?」  聞き慣れない声に肩が跳ねた。  黒板に近い出入り口(俺の席から、斜め右の正面)に向井学が学ラン姿で鞄を片手に突っ立っていた。取り巻きがいないと貫禄にかける。 「電気くらい点けろよ。びっくりした」  俺もびっくりだ。お前に名前を呼ばれるなんて。  「さっきまでは、まだ明るかったから」  時間が過ぎて外の暗さが際立ってきたのだ。 「そうなのか?」  向井はニコニコしながら、明かりを点けた。  俺は無表情でアンケートを捲った。 「いつもの二人はどうした?」 「誰のことだ?」 「林の友達」  向井が俺の斜め後ろ左の窓際にある、自分の席まで歩いていく。 「部活」 「そっか。俺達は雨で練習が流れたからな。こういう日は、屋内のスポーツが羨ましく感じる」 「さいですか」  向井は陸上部のエース。そして、俺は陸上部の一部員。  後ろから、教科書を整える音がする。我が陸上部のエースは忘れ物でも取りにきたのだろう。  忘れ物をとったら、さっさと出て行ってくれ。俺は脇田や西山じゃない。お前と積極的に仲良くなるなんて願い下げなんだよ。俺は平凡に生きたいんだ。
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