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「林?」
聞き慣れない声に肩が跳ねた。
黒板に近い出入り口(俺の席から、斜め右の正面)に向井学が学ラン姿で鞄を片手に突っ立っていた。取り巻きがいないと貫禄にかける。
「電気くらい点けろよ。びっくりした」
俺もびっくりだ。お前に名前を呼ばれるなんて。
「さっきまでは、まだ明るかったから」
時間が過ぎて外の暗さが際立ってきたのだ。
「そうなのか?」
向井はニコニコしながら、明かりを点けた。
俺は無表情でアンケートを捲った。
「いつもの二人はどうした?」
「誰のことだ?」
「林の友達」
向井が俺の斜め後ろ左の窓際にある、自分の席まで歩いていく。
「部活」
「そっか。俺達は雨で練習が流れたからな。こういう日は、屋内のスポーツが羨ましく感じる」
「さいですか」
向井は陸上部のエース。そして、俺は陸上部の一部員。
後ろから、教科書を整える音がする。我が陸上部のエースは忘れ物でも取りにきたのだろう。
忘れ物をとったら、さっさと出て行ってくれ。俺は脇田や西山じゃない。お前と積極的に仲良くなるなんて願い下げなんだよ。俺は平凡に生きたいんだ。
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