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向井は待っていると言った。
俺が先に帰れと言ったにも関わらずだ。
黒板の上につけられた時計は、午後六時を指している。
雨は弱くなっていたが、五月の空に相応しくない暗さだった。
俺はアンケートを脇に抱え、職員室へと向かった。
向井にちゃんと返事をしてやらなかった。
奴は怒って先に帰るかもしれない。
それで良い。
担任の女性教師にアンケートと集計用紙を手渡した。
感謝と雑談の中で俺の進路希望を聞かれて、たぶん家業を継ぐことになると答えた。
教師はしばし俺の顔を見つめ、だけど、何も言わずに頷いた。
俺の親父はこの辺りを牛耳る鬼門会の頭だ。
俺はやくざの頭の嫡出子だ。
だが、親父には俺以外に子供が何人もいる。
女が何人もいる。
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