第一章 1

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 向井は待っていると言った。  俺が先に帰れと言ったにも関わらずだ。  黒板の上につけられた時計は、午後六時を指している。  雨は弱くなっていたが、五月の空に相応しくない暗さだった。  俺はアンケートを脇に抱え、職員室へと向かった。  向井にちゃんと返事をしてやらなかった。  奴は怒って先に帰るかもしれない。  それで良い。  担任の女性教師にアンケートと集計用紙を手渡した。  感謝と雑談の中で俺の進路希望を聞かれて、たぶん家業を継ぐことになると答えた。  教師はしばし俺の顔を見つめ、だけど、何も言わずに頷いた。  俺の親父はこの辺りを牛耳る鬼門会の頭だ。  俺はやくざの頭の嫡出子だ。  だが、親父には俺以外に子供が何人もいる。  女が何人もいる。
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