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加藤は殴られた頬を押さえ、倒れたまま、べそをかいた。
私は加藤の部屋に染み付いた、後悔と絶望と、それを持続させている夢の片鱗に、気付かずにはいられなかった。
「希望だった」
加藤は声を上げて泣き出した。
幸島へ託した彼の心を、私は、今の今まで、まったく思い描かなかった。
そして、それは、私たちの意外な共通点を、指し示していた。
私は、ポケットから痛んだ煙草のパッケージを出した。
加藤は、目を見開いた。
私はそれを、加藤に放り投げた。
「とっくに、捨てたと思っていた」
「やる。まともに生きたくなったら、吸え」
六年の間に、私の汗や雨に降られ、それは皺だらけになっていた。加藤はパッケージを見つめ、小さく吹き出し、そんな瀕死状態のドクロを、笑っているみたいだといった。
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