滲んだドクロ

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 私は、どこかのネジが吹っ飛んでしまったのではないか、と心配するほど、笑った。  ああ、わかっている。お前が何といおうが、放っておけばいいのだ。そうできないのは、ちくしょう、私がまともじゃないからだ。くそったれ。ちくしょう。どうせなら金髪美女が来いよ。ちくしょう。ちくしょう。  私は勢いよく部屋に入り、煙草を灰皿に押し付け、幸島から渡されたフラッシュメモリを、立ち上げたノートパソコンに取り付けた。  私は貧乏ゆすりをしながら、幸島の書いた文を読み、それが途切れたところで幸島を振り返った。  奴はもう眠っていた。熟睡しているのか、腹も上下させない。  私は、電気を点けないままキーボードに手を置いた。  朝になっても、幸島は目を覚まさなかった。  布団を上げると、べっとりと黒い染みが広がっていた。幸島の利き手の傍にナイフがあった。 私は、フラッシュメモリに記録されていた、幸島の両親の番号に、電話をした。彼らは、ほどなくして、幸島を自家用車に乗せ、去った。  私はついに、幸島から渡された、十センチのメモリに入った、新作と偽った遺書を、彼らに渡さなかった。  そこにはこうあった。 ―許せ、友よ。俺がお前の前ですることを、許せ。俺は作家でありたい。俺は芸術家でありたい。俺は俺でありたい。友よ、俺を見て話を書け。俺の苦しむ姿を、俺の腐っていく精神を、お前の手で形にしてみせろ。俺の我儘を聞いてくれた餞別だ。安いものだと思え。  幸島は大学一年の時に、自身の伝記的な小説で、文学界では登竜門と呼ばれる賞を受賞した。それ以後、潰れていく新人作家を尻目に、彼は名を馳せていった。  私と加藤と幸島は、どこも似ていなかった。   偶然同じ時期に、同じ場所にいて、同じ講義を受けただけの仲だ。  夢を語り合ったのでも、好きな女の話をしたのでも、悩みを肴に酒を飲んだこともない。  そう、私たちはお互い、一歩引いていた。
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