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それは運命だったのかもしれない。私の精神を弱らせるだけ弱らせ、その先の出来事を受け入れさせようとする罠。
きっかけは家族だった。
そして、それは時が狂うような早さで(いや、実際は私の頭の中での時間の経過が狂っていたのだが)、次々に進んでいった。
要約すれば、こんな感じだ。
父から結婚の催促をされ、彼女がいることを仄めかしてあやふやにしていたら祖母が癌になって、余命幾ばくだと医師から宣告され、しかし、仕事があると見舞いに行かなかったら、ついに父からの緊急の電話が会社にかかり、「帰ってこい」ときた。
だが、父達の側で起こっている現実とは違う現実が、私の側にも起きていた。
私はその時、休日返上で、人が眠る時間に栄養剤を飲み、上司から初めて任された大手化粧メーカーの広告を、作っていた。
これを成功させれば、会社の知名度は上がり、しいては顧客もつく。裏を返せば、失敗は解雇に繋がる。
今、職を失うわけにはいかない。医療保険、年金、家賃、生活費。金はいくらでもいる。
私は、いくら何でも無理だ、と電話越しに応えた。
とたん、義母のヒステリックな悲鳴が、父の押し殺した息の後ろで聞こえた。
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