滲んだドクロ

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 父がこの女を娶ったのは、気の迷いだとしか考えられない。  母の方がずっと素敵だった。親としても、女としても、人としても。  義母は、祖母の介護がどれだけ大変かと叫び散らした。父が苦笑し、謝罪とともに電話は切られた。  私は結局、祖母の死に目に会えなかった。 「契約でもいいじゃないの。英ちゃんが頑張って選んだものなんだから」  祖母は頭の良い人だった。白内障の手術をしてからは、テレビを捨ててしまったが、ラジオをいつも聞いていて、社会の動向に敏感だった。  そんな祖母が契約社員でもいいと、あのニスを塗ったようにピカピカの頬を緩ませたのは、当時は気づかなかったが、同情だったのかもしれない。   小中高を無難に過ごし、その反動からか、それとも魔がさしたのか、芸術大学の文芸科へ進学を決めたのは六年前。大学院へ進む準備をしつつも、親に「逃げだ」と非難され、盲目のまま就職活動を続けた結果、契約社員だが、弱小広告代理店の内定をもらった。 それからというもの、実家への帰り支度を、社宅への移動へと変更し、蚊の鳴く程度の給料で生活をしている。  楽しい、楽しくないの世界は。随分前に、通り越してしまった。  祖母の葬式の日、私は最終の新幹線で故郷に戻り、祖母の死に顔に手を合わせて酔った親類の相手をし、よたよたとトイレに行こうとしたら、義母に手を引かれた。  五十二歳の父が第二の連れ添い人に選んだ三十一の女。  ちっとも変っていない。血の繋がりはないにせよ、二十歳の息子となる私を強姦した女は、三十路を越えても、淫乱のままだ。  トイレの前の四畳の部屋に連れ込まれ、電気を灯さないで義母は鍵をかけた。  私は自分の上で腰を振っている義母を、直視したくないばかりに、暗闇に浮かぶ段ボールや家電品の数を数え、その大半に母との思い出がちらつき、今の自分とのギャップを突きつけられるはめになった。  終わると、彼女の顔が近付いてきた。払いのけ、身なりを整える。義母の平手打ちを食らった。顔をしかめたそこに唇を押し付けられる。  義母の睫毛が萎れていた。この女も抱え込んだ苦痛があるのかもしれない。私は口を開き、義母に合わせて舌を使った。
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