滲んだドクロ

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 タクシーは大通りを走り、ネオンを滲ませた。男がかすかに鼻歌を歌いだす。途切れ途切れの平坦な音のライン。桜が脳裏を過ぎった。淡い桃色の花ではない。夜の暗さの中でさえ、緑の葉を茂らせたとわかる桜の木。  葉桜だ。  タクシーは住宅街で停車し、私は男に連れられて寂れたアパートの階段を上った。コンクリートの床が夜目でもひび割れを教えている。部屋は圧迫感だけを与える代物で、安らぎの欠片もなかった。  引きっぱなしの布団はシーツがよれ、廊下につけられている流しにはカップラーメンの容器が化薬を残したまま捨てられている。男は電気も点けずに廊下を過ぎ、布団へと私を寝かせた。背広を脱がされる。体臭がし、私の瞼を下げさせた。  男はシーツを整え終わると、冷蔵庫を開けた。ビールを二缶持ち出してくる。一缶を布団の傍に置き、もう一缶をあおった。吐息が鼓膜を震わせる。私は冷えた缶を指先で弾いた。爪が缶に当たる角度の違いで、低くも高くも響く。私は即興でリズムをつけた。男は何もいわず、私のでたらめな演奏を聴いていた。  朝日と共に私の酔いは冷めた。一人の男が壁にもたれながら、私を見つめていた。目が合い、口角を上げられる。
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