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─── 冬の寂しげな野山に一輪だけポツリと懸命に咲き誇る華。
僕はいけないと知りつつ、両手を合わせ、
『ごめんなさい』と呟き、咲き誇る華を力強任せに引き契る。
引き契った華を口で抱え、雪の冷たい野山を必死に駈ける。
「ねえ母さん。見て、とてもキレイな華を見つけたよ?」
── 僕は華を側に置いて、静かに横たわる母さんの身体をユサユサと揺する。
だけども母さんは返事をしてくれない。
必死に身体を揺さぶっても、何度呼び掛けてもピクリとも動かない。
「……母さん!ごめんなさい!
もう我が儘言って困らせたりしないから……
好き嫌いせず何でも食べるから……
ちゃんと言う事聞くよ、
──── だから、
お願い、僕を…………僕を独りにしないで」
僕は全く返事をしてくれない母さんにすがり付きながら泣きじゃくる。
── 辺りは白銀の雪化粧を施されているが、母さんの周りだけ絨毯がひいてあるかのように、真っ赤に染め上がっているのだ。
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