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映画に行くかと誘われ、気乗りしないまま乗り込んだ車の助手席で朝陽は後悔をしていた。
車は沿岸部を走り、千葉県のテーマパークに隣接する複合施設に向かっている。
「朝陽、何で機嫌悪いんだよ」
一瞥して、運転席から流れ来る煙草にわざとらしく咳き込む。
「ごめん、 いま消す」
「いいよ別に」
映画は観たかった。 けれど車で遠出だとは思っていなかったし、 何より外が土砂降りだなんて、家の玄関を開けてから知ったのだ。
「こんな天気の日に遠くまで来なくても良かったんじゃねえの」
「そんな事で不貞腐れてたのか」
面倒くさい事は嫌いだ。
雨の日も。
酔いやすいのに長時間、車に乗ることも。
「こんな梅雨の時期だからこそ、たまには遊びに贅沢しても良いかと思ってさ。給料出たところだし」
「自分の分は自分で払うから」
「学生に払わせる為に連れ出したつもりはないよ。今日は全部俺持ちにさせろ」
「いらない」
幼馴染み、腐れ縁、お隣りさん。
そんな言葉で聞くと仲の良さそうな兄弟のような関係性だ。
しかしこの先天的タラシのような男は、自分の事をおもちゃにして日頃のストレスを発散しようとしているのではなかろうか。
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