陽炎に揺らぐ〈不協和音〉

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昔の朝陽は、泣かなかった。 どれだけ寂しい思いをしているかも推し量れなかったが、相当に我慢していただろう。 朝陽が一人で留守番の日は、リクの散歩に一緒に着いて行ってドッグランで日が暮れるまで付き合った。 高之が高校に入って、働き出した昇とつるむ時間も減り、退屈な学生生活の味気無さを晴らす為に女を覚えた頃には、朝陽は作り笑いを覚えていた。 発情期の発散を求めていたあの年頃の愚行を、大人の恋愛だと勘違いしたりして。 朝陽のように真っ直ぐに、見返りを求めずに自分を見てくれる人間はいなかった。 ただ、作られたものではない笑顔をもう一度見たくて、視線が朝陽ばかりを追うようになった時に── 恋なのだと気付いた。
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