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「まだあいつ怒ってる……?泣いてた?」
「そうだな、少なくともお前程は泣いてないけど……」
事務所の窓から経緯を見ていた昇は、豪快に何枚もティッシュをもぎ取って、涙を拭いてから鼻をかんだ。
「馬鹿だな、何で言ってやんなかったの。オーナーじゃなくて兄としては行かせるのは辛いんだって」
「だってさ……小さい頃から今まで散々俺のわがままに付き合わせたから、朝陽が独り立ちする選択肢を減らしたくないもん。考える余地も与えないなんて兄として失格じゃんか……」
朝陽の日誌の事は高之に教えられた。細やかで繊細な観察と気配りが書かれていると。
人間関係や仕事環境への些細な不満も聞いていた朝陽は、手を煩わせまいとして昇には知らせずに解決策を探してきた。
だが、高之は昇に話した。
これを話す役は自分しかいないと思った。
互いの間で影響を受けてきた朝陽が己の意思で動いて、誰よりも柔軟性を持っていたことに心底驚かされたのだ。
高之にとって親友として、恋人の兄として、朝陽の父親代わりとして昇が与えてきた愛は確実に活かされているのだと、伝える為に。
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