ジョシコーセーは金になる

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 平日の正午をすぎたころ、俺は駅まで五分ほどの道のりを行く。昼休みのリーマンやOLの姿を見るともなしに見ながら、地面に吐き捨てられたガムをかわして歩調が乱れた俺は足を止める。その間近、ビルとビルのあいだを何気なく覗き込んだ。  飲食店の裏口の前にあるペールの陰に光るものが見えた。うめき声まで聞こえてきて、俺は近づいてみる。生ごみの悪臭が染みついたペールの陰には人がしゃがみこんでいた。  近くの高校のものと思しきブレザーの制服を着ている女は、髪のひと房と片方の頬を金色に染めていた。  単なる金髪とかそういう色のチークとは明らかに違った。女の頬は金箔を張りつけたようになっていたのだ。  そういう化粧が流行っていると聞いたことはない。 「おい、どうしたんだ?」  女は俺を見上げて、ああ、と息を漏らした。 「ちょうどいい……」  ひとりごちて女は自分の頬をこすった。手のひらに消しゴムのカスのようなものが載っていた。金色だ。 「手を、出して」  朝露のしたたる紫陽花がゆれるように笑った。  俺が水をすくうようなかたちの両手を差し出すとその上に手のひらの中身を落とした。続いてスクールバッグから手鏡を取り出すと、ショートボブの金色になったひと房を指に巻きつけ、引き抜いた。俺の手に載ったそれはとてもじゃないが髪の毛とは思えぬ重みがあった。
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