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私はサッと翔ちゃんに気付かれないように廊下の端に身を隠す。
どうして翔ちゃんがここに?
4年ぶりだった。
翔ちゃんはいつだってカッコ良くて王子様みたいで…。
涙がジワリと浮かんでくる。
スーツを着た翔ちゃんは、あの頃よりも大人っぽく見える。
凛々しく背筋を伸ばして歩く姿は、やっぱり私には遠い存在で、いつだって私が追い付けない所にいるような気がして、手を伸ばしても届かない。
こんなに近くにいるのにね…。
私は翔ちゃんが帰って来た理由がこれだったんだと知った。
教師になったんだ…。
ドクンドクンと弾ける胸を落ち着かせるように呼吸を整える。
そして翔ちゃんと連れの先生が見えなくなるのを待って、私もようやく歩き出した。
職員室とは正反対の方向へ。
鍵は明日返せばいい。
新学期が始まればもう避ける事ができない状況で、まだ戸惑うばかりの私だけど、
今だけは…。
「さようなら。」
その時風がふわりと通り過ぎるように、宇佐美先生とすれ違った。
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