171人が本棚に入れています
本棚に追加
/599ページ
時は慶応三年。
この日は爽やかな秋晴れだった。
辺りを見渡せば一面に広がる真っ赤な曼珠沙華が、これから戦地に向かう自分達を誘うかのように咲き誇っている。
「大樹、何やってるんだ?休んでいる暇はないんだぞ!」
「わかってるよ!岩屋さん、今行く!」
大樹と呼ばれた青年は若干十九歳、本名を大木匡と言い、故郷の秋田藩を脱藩して変名を大樹四郎と名乗っていた。
脱藩した理由?
それは先日、京の都から相楽総三の名で秋田藩主、佐竹氏の家臣渋江家の道場に届いた一通の檄文。
『我は西郷隆盛の命により、これより江戸、三田にある薩摩藩邸に入る、同じ志を持つ者は此処に集結せよ』
これを見ていてもたってもいられなくなった。
自分はこの時を待っていた、やっと、やっと彼の役に立つ日が来たのだと……
次の日、旅支度をして自分を迎えに来てくれた岩屋鬼太郎と荒井仁造(二十五歳)と共に江戸に向かった。
江戸よりも早く冬が訪れるこの国はもう山々が色付いてすっかり秋らしくなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!