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江戸までの道のりは約百四十三里(約536キロメートル)
一日九里(約36キロメートル)を十六日から二十日掛けて歩く。
山を越え、渓を下り、街道をひたすら歩き続けた。
大樹は秋田を出てから妙な夢を見るようになる。
真っすぐな長い黒髪、その髪を靡かせながら、女はいつも明るい笑顔で笑っていて、それが太陽のように眩しかった。
大樹がその女に触れようとした瞬間。
女は椿の花に姿を変えて七つの花が自分の回りに降り注いだ。
椿は花ごと地面に落ちて散る事から、まるで首を斬られた武士の死に様のように見えて大樹は嫌いだった。
「……椿?」
「何か言ったか、大樹?」
「何でもねえ……」
だが、目覚めると夢の内容は覚えていない、ただ、色のない世界に染まる赤だけが無意識に残っていた。
やがて水戸街道に出ると、流石に江戸まで続く宿場町、人の往来が多い。
水戸街道から小金宿までやって来た時だった、朝餉を取るために一軒の食堂に入ると自分達の他に二人の男が楽しそうに会話をしていた。
だが、そんなのは自分達には関係のない事、注文を済ませ食事を取りながら二人の会話を耳していると。
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