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「ごめんなさい。ごめんなさい」
彼は風です。冬に生まれた泣き虫の風です。
彼は街行く人たちが寒い寒いと襟をたてたり、フードを被ったりすると悲しくて泣いてしまいます。
あげくの果てに涙が雪となり、大泣きした日には吹雪になるのです。
それを知って疲れて眠るときだけ、人々は穏やかな気持ちになれるのです。
彼の先祖に北風というものがいました。
やはり風なのですが、太陽と勝負をして負けたものです。
彼は人々が話す物語から北風を知りました。
人の服を吹き飛ばそうとしたけれど、北風が吹かす風は冷たくて無理であり、太陽はさんさんと輝いて暑さに負けた人が服を脱ぐ。
そんな物語を知って彼は、人を困らせる風だけにはなるまいと誓ったのです。
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