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「月斬を持ち出すとは……」
娘がたゆたう赤い絨毯に、私は車椅子の車輪を乗り入れた。
その手には骨董部屋に鎮座していたはずの業物。そして私の手には、娘からの呪詛とも呼べる手紙。
それを懐に押し込み、私は携帯電話を取り上げた。
「……私だ。また娘の修復を頼む」
私の研究は国家機密。家族にもその実態は話せず、国から別離を迫られた事もある。心を寄せる者があれば、それを盾として反政府組織に情報提供を迫られる危険もあると。
代わりに、妻も子も私にとって取るに足らない存在だと、見えない監視に常にアピールし続けた。
「迎えは十分以内だ。一秒でも過ぎたら私は今のプロジェクトを降りるぞ!」
凍てつく夜を、知らずにお前は復讐の為に繰り返す。
凍てつく心を、私は研究の粋を尽くして最初の夜に息絶えたお前の中に残し得た。
それこそがお前がお前であることの証。
私の世界から消える事など許さない。
凍てつく瞳を、お前は私と共に……。
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