手紙

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「月斬を持ち出すとは……」  娘がたゆたう赤い絨毯に、私は車椅子の車輪を乗り入れた。  その手には骨董部屋に鎮座していたはずの業物。そして私の手には、娘からの呪詛とも呼べる手紙。  それを懐に押し込み、私は携帯電話を取り上げた。 「……私だ。また娘の修復を頼む」  私の研究は国家機密。家族にもその実態は話せず、国から別離を迫られた事もある。心を寄せる者があれば、それを盾として反政府組織に情報提供を迫られる危険もあると。  代わりに、妻も子も私にとって取るに足らない存在だと、見えない監視に常にアピールし続けた。 「迎えは十分以内だ。一秒でも過ぎたら私は今のプロジェクトを降りるぞ!」  凍てつく夜を、知らずにお前は復讐の為に繰り返す。  凍てつく心を、私は研究の粋を尽くして最初の夜に息絶えたお前の中に残し得た。  それこそがお前がお前であることの証。  私の世界から消える事など許さない。  凍てつく瞳を、お前は私と共に……。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加