全1章

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「胸もとのペンダントが、water mark のよう」  デジャ・ヴが付け加えたことを思い返してボクは目覚めた。そうだ、ボクは昨夜、デジャ・ヴと「水の街」へ出かける約束をして眠ったのだ。加えて気恥ずかしかったところもあったのだけれど、デジャ・ヴはボクにこう言うのだった。 「でも、この星ではめずらしい色の瞳」 そうなのだ。大きなロットで巻いたような髪の毛。染めているわけじゃないのだけれど、若い子もうらやむような黒髪。鼻のかたちはすっとしていて高いほうなのかもしれない。人間らしさの通う口もとは、慎みがあって張りのある肌と声とはとても無理をせずに。その指先の爪の色はまるで亜熱帯地方の海の底にある珊瑚たちの色。  ボクはついこの前まで隣の小さな惑星に住んでいた。いろいろな花にあふれる花壇があって、あかるい色をした家に住んでいる優しいおばあさんとの暮らしていた。なんだかもうその思い出とは決別を決めたはずだ。  ボクはいそいでシャワーを浴びて屋外に出た。しずかな冬の夜明けまえは透き通るような空気で、白樺の木でつくられているボクの家の横をはしるアスファルトの道は、水色に輝く地平線の先までまっすぐに延びている。その道がダイヤモンドを敷きつめたように輝いている。空に渡し船がこぎわたっている夜は、星ぼしが駆けぬけていって、その明かりはとてもやわらかに、雲の泳ぎを照らしだしている。うしろからしずかに風の通りすぎるのをボクたちは感じるままだ。流れた星が気をひくようにひとつ輝くと、自身をけずった塵たちを残しては、それが放物線のかたちをしめして落ちてゆく。この地上の重力がゆっくりとそれらを獲得したからだ。そのあとを、また流れ星が追った。そのあとにもまた。まるで仲の良い友人のように。それらがひとつの焦点に向かって消えたのを、ボクたちは確認する。ボクは嬉しかった。  アリ塚が豊かで深い呼吸を繰り返しては、また繰り返す。その向こうにやっと昇ってくる真っ直ぐな陽光。ダイヤの煌めきでこれから人々の目覚めを一気に喚起させては、身支度の暇さえ与えないようにするのが役割だ。ぼくたちはアリ塚の近くから声を聞く。ボクは地面に伏せた。そのボクにデジャ・ヴは驚いたようなしぐさをする。ボクの耳もとにやってきた、この街の目覚めをうながす精霊の使いが告げてくれた。 「なにを聞いたの?」
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