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誰もが起床に向かう五分ほど前。褐色のレンガ色の、高くそびえている「叶う時と思い出の丘」の時計台の針が、人々の目覚めをうながす語りをはじめる。むかし人が言っていた。planet Earth というところでは、時計の針の回りがここの惑星とは逆なのだ、と。ディスクもはさまれてある新聞のパリッとした制服の配達少年が、息をきらせながら靴音をたからかに走るのに懸命だ。人々の仕事がまもなく開始される。だんだんと、霧におおわれていた都会のビルディングが姿をあらわしてくる。青い信号機の輝く交差点のそばの、planet Earth で言う十二世紀に、ヨーロッパ地方に現れたゴシック調に似た教会の足もとで、少年がダンボール箱をたたいてはドラムを打つ練習を開始した。大古代時代の建造物の痕跡を残したこの街の風景と馴染む、その少年についてデジャ・ヴはよく知っていた。
「バンドの仲間から取り立てて理由もないまま、つまはじきにされていまあそこにいるの。でも一流のドラム奏者として独り立ちをしたい気持ちはちっとも失ってはいない。いつもあの場所で練習をする。あの少年はもう三年間の経験を積んでいるの」
デジャ・ヴは少年を紹介してくれた。
「いつも、彼はあそこで?」
訊いてみるまでもなく、
「彼は自分の修正をかかさないわ。それでも別の世界のことも考えている」
とデジャ・ヴは言った。
「夢、叶うといいね」
「目立ちたくて、たたいているのじゃないの。でも彼、けっこう有名人かもね」
「若くして有名になることは、悲劇の生活だよ。闘いがきっとあるよ」
「そんなことに振り向きく彼じゃない」
デジャ・ヴは察したように囁いた。ボクが少年の心情になにか暗い存在を感じたからだ。
間近に迫る ambulance の通行が、もうひたすら仕事を始めている街のスズメたちの一群を、いっせいに解散させた。はるか遠くまで見通せる道の信号機が、ambulance の通行を一意に容認した。ジョジョが無言を貫いてあとを駆けてゆく。
「びっくりしたね」
ボクの声も聞こえているはずの少年は、それでもドラムの練習に打ちこんでいた。
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