全1章

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 デジャ・ヴは、その質問にはこたえなかった。ボクはデジャ・ヴも大変なんだな、と察した。十七になる少女が、そんなにものを知っているはずがない、と思うからだ。ボクがそうであったから。いまはこの世界が、人間性なんてものからはかけ離れた動機で動いていることを知っているけれど。 「わたしの仕事に特別なことはぜんぜん必要ないの。生きた人間のそのこころに寄り添うことだけ」  とデジャ・ヴは、ボクの考えを斟酌するように言うのだ。  そこへ小さな女の子が一輪の真っ赤な花をにぎって、お母さんと手をつないで少年のもとを通りかかった。女の子の手が少年に差しだされた。握っていた大きくて真っ赤な花とテキスト・ブック。やがてあたりに静寂がやってきた。少年は手をのばしてさしだされた赤い花だけを受けとった 「学校にはゆかないよ。学問よりも行動だ。あとは自分の分を尽くすだけだ」  そう言うと少年のリズムは、また始めから再開されるのだった。そんなお母さんの顔を見上げる女の子の表情には、明るさが増して見えた。女の子の視線は少年の瞳を見上げていた。 「いつも前を見つめているんだよ」  少年は、女の子にそう言葉をかけたときも、彼のリズムは途切れることはなく、そして少年は微笑むと、すべてを振り切るように正面に視線をむけた。  少年の生はまさに時間の進行だ。彼に後戻りは存在しない。彼はそれでいい。そして彼にはとてもそれが似合っていた。 「自分の幸せは、自分が決めること。それが総て」  女の子はそう返して、お母さんのほうをもう一度見上げた。その女の子の眼線の先には、planet Earth の明けの明星のような惑星が、いままさに青き炎をおさめつつあった。女の子と少年の視線がであったそのとき、 「前を見て生きるんだって、いま言っただろう」  と、少年は女の子を静かに叱責した。そして調子を整える格好をとるなり、もう一度少年は言うのだ。 「違うよ。きみはいま昨日の喧嘩のことを思い出していたね。人間が不幸になるのはこころがとらわれている時だよ。ボクにはきみのこころが痛いほどよく聞こえる。幸せを生きて欲しいんだ」 
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