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俺たちはそれからネオンが灯る繁華街へと戻り、適当な居酒屋に入ることにした。
店は小汚かったが繁盛していて、横の席では中年くらいのサラリーマンが会社の愚痴を肴に酒を酌み交わしていた。俺たちの横の壁には備えつけられたテレビがあって、野球中継が流れている。
昔は凄まじいスラッガーだった選手が豪快に空振りし、悔しがっている姿が大々的に映し出された。
「俺たちが進む道は、これであっているんだろうか」
講演での自信満々はどこへやら、依楓は苦悶の表情のままビールに口をつける。俺は冷や奴に箸を付けながら、依楓を励ます。
「今日の講演、大成功だったじゃないか。世の中には癌で苦しむ大勢の人たちがいる。それを救うことができる研究だ。これを誇らずになにを誇る」
依楓は釈然としないようだった。俺たちの間に重たい沈黙が横たわる。
「俺はもう、あんな演技じみた講演はうんざりなんだよ。なあ、今のこの国の十五歳から四十九歳までの死因の一位はなんだと思う」
「それはお前、何かの病気じゃないのか」
「違う、自殺だ」
その現実に、全身の毛穴が開いたと勘違いするほどの寒気が走った。俺の心に闇が立ちこめていく。
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