講演 ー変わりゆく世界ー

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  少子高齢化が進む昨今、政府は大幅な舵転換を行った。  スローガンは『安全と保証の国、日本』  消費税二十%を含む様々な増税を元に財源を確保し、こ高齢者や障がい者に優しいバリアフリー化を名目に種々の公共機関を一斉改革した。  今乗っているこのバスもプロジェクトに乗っかり、優先席を全座席の六十%にまで拡大させた。この優先席に座ることは、空席時でも許されない。それでいてバスの料金は、若者は五割増で高齢者は七割減だ。  世界はすこしずつ、高齢者に寛大な世界に変わりつつあった。  バスから見える景観も、大きく変わりつつある。  今通り過ぎようとしているのは、更地と化したショッピングモールに、取り壊されるカラオケボックスやボーリング場。社会のニーズに応えるべく、介護施設や老人ホームを急増させるために、それらに退場してもらうのが半年前の選挙で決まった。 「知っているか」  窓越しに見える外の世界か、窓越しに映る自分か。それは分からないが、依楓は一点を凝視しながら、独り言のように呟いた。 「俺たちの小学校、廃校になるらしい」 「え、そうなのか。なんで」 「子供の数が減ってきて、学校として維持できなくなったらしい。今いる生徒たちは他の学校に編入だそうだ。校舎は取り壊され、老人ホームになるんだそうよ。もうその老人ホームも、既に予約で一杯だとさ」 「どこもかしこも、似たり寄ったりになるな」  どこに閉まっているかも分からなかった小学校の記憶が、ガタガタと騒ぎだす。  依楓が蹴ったボールで凹んだ体育館倉庫、コンパスで名前を刻んだ机、生徒の悪戯で半分割れた非難ベルの赤い蓋。そんな下らないあれこれも、俺たちの記憶の中だけの存在になるらしい。
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