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幕間
依楓の母親は癌で亡くなった。
俺は依楓とは小学生のころからのつきあいで、依楓の家にいつも転がりこんだものだった。そんな俺を依楓のお母さんはいつもニコニコして迎えてくれた。依楓のお母さんはとても優しくて気立てがよく、子供の自分から見ても美人だった。依楓も口にはしなかったものの、自慢の母親だったに違いない。
だが神様は、残酷な運命を依楓に用意していた。
高校二年生の時、依楓のお母さんに膵癌が見つかった。それだけでも俺は驚きうろたえたものだったが、そのあと一年も経たないうちに依楓のお母さんはあっという間に天国の階段を上ってしまった。本当にあっという間だった。
依楓の母親が亡くなる一ヶ月前の冬、俺は依楓のお母さんの病室を見舞った。
風が吹いたら折れてしまいそうなほどの細い腕と、呼吸するたびに浮き上がる首筋。そして彼女の命の灯火を支える無数の機械が、彼女を取り巻いていた。依楓は固く手を握りしめながら、病床の母親を見つめる。彼女が繋がれる機械を睨む依楓は、俺に背中を向けたまま願いを口にした。
「頼む、俺に力を貸してくれ。俺と一緒に、世界を変えよう」
その声はどこか祈りにも似ていて、俺はその祈りの行く末を見届けると、依楓のお母さんに約束したのを今でも覚えている。
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