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「そんなとこおらんと、こっち来て。皆に紹介するで」
何語だよ!
そう突っ込みながら、私は部署へとゆっくり足を踏み入れた。
きっと、ここに夢にまで見た王子様がいるに違いない。
違いない……
「あ、皆注目ー! 今日から“パイプライン部”の仲間になる宇名田 真希さんやで。ほな、宇名田さん。自己紹介したって」
私は部署内をぐるっと見渡した。
仕事をしていた手を止め、10人程の視線が一斉に私へ集まる。
王子様、王子様、王子……王……
「…………」
いねーじゃん!!
松野部長もなかなかのナイスガイだが、私の知っている王子様ではない。
魔女に抗議したいのに、こんな時に限ってだんまりだ。
後で文句言ってやる!
「どないした? ああ、緊張するよなぁ? 大丈夫やで、皆優しいヤツばっかりや。いくら宇名田さんが美人やからって取って食ったりせえへんから安心し!」
取って……食う!?
王子の姿がないショックと、そのワードに激しく動揺した私は全身をガタガタと震わせた。
「うわ! 気分でも悪いんか!? 日向さん、ちょっと来て!」
「はい! 宇名田さん、大丈夫ですか?」
日向さんと言われた女性が私の背中を支えた。
……いい匂いがする。
海と湖の匂いしか嗅いだことはないが、これはいい匂いだ。
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