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もう全て、諦めてしまえ。
もう全部、終わりにして。
何時もの調子づいた語尾も無くなって、ミツは一際真剣にハチを見つめた。ハニーブラウンの前髪、その奥で揺れた瞳は、ありったけの願いを込めて佇んでいる。
ハチにはどうすることも出来ない。彼も彼女も、自分と同じように道を譲ることはない。
お互いに、真っ当に真剣だった。それだけに、一層悔しさが滲む。何で、そんな事を言うんだよ。
ハチが剥き出しに、噛み締める犬歯。何でお前が、ミツだって助けられた筈じゃないか。
そのお前が言うのかよーー
心では思って口には出せず、軋む歯の根が痛くなる。分かっていると、頭で言い聞かせる言葉は、ひどく必死な有り様になった。
「……よし、じゃあこうしよう」
一瞬、場の空気が止まって、龍二郎はすかさず杖を打ち鳴らす。カツン、小石の跳ねた高い音。
はたとして、我に帰るハチ。力一杯に食い縛った奥歯から、少しだけ血の滲んだような味を感じた。
気色悪いし、不快だった。けれどそれは、心の奥にどろりと淀んだ、なんとも言えない感情の所為でもあると、ハチは思う。
「少し付き合いなさい、ハチくん。男同士の話しをしよう」
龍二郎は言う。張り付いたような微笑みがくちびるに戻り、細く切れ長の両目には柔らかな空気が宿っている。
何を考えているのか分からない、分からせない眼光。ハチはそれらをまっすぐ睨んで、口のなかに溜まった嫌な味を吐き出した。
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