第1章

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小高い丘ーー墓標も兼ねたーーを下れば、そこは一つの街になっている。 いや、なっていた、と過去形で。元々、街として機能もしない廃墟と荒んだビルディングがほとんどで、住み着く住人も機械化された自律兵器群がまるで針の山。 生身の生き物も、それに準じたサイボーグ生命も無い。まったく完全な意味で、人工的な街並みが今や、面影を偲ばせるだけに留める塊の山に成り果てている。 こうなる結果は見えていたと、龍二郎は器用にコンクリート片を避けて杖を突く。すぐ真横には、横倒しになった高層建築が、恨みがましく空になったテナントを覗かせる。 竣工されてから数十年か、数百年か。過激な戦乱を潜り、未だ倒壊の憂き目にも遇わなかった勇壮な廃ビル達は、最早ほとんどが横腹を地面にあてがい倒れていた。 まるで涅槃でも決め込むよう。本来の目的を果たせず、あるいは果たした後に残った最期の処世としては、なんとも正しい有り様ではある。 もちろん、そんな事はない。それが望まれたものでないことも、龍二郎は理解している。
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