第2章

42/53
前へ
/614ページ
次へ
ミツは手を止めない。そのまま、振り向きもせず話を続けた。でも、と。 「例えば、ですにゃん。自分を生んでくれた親が、自分を愛して無かった場合。明日のごはんのために、親が子供のカラダを売り払った場合……例えばそうして、身も心も何もかもズタズタにされた少年が、どん底から助けられた場合、その助けた本人を忘れる事が出来ますか……にゃん」 声のトーンは努めて変えず、だからこそ実感は言葉の端々に滲み出る。ミツは少年と言ったけど、必ずしも主体が少年であるとは限らない。 でなければ、ここまで生々しく言って聞かせてみせる事実に、語り手としての才能さえ感じてしまう。そういう感情を乗せる能力が、この子供に有るのかも分からないが。 少なくとも、子供心に、どうしようもなく切実なのだ。家族を━━そう言って差し支えない存在を失ってすぐ、また別の家族が離れてしまいそうなのだから。
/614ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加