51人が本棚に入れています
本棚に追加
のだろう、としかミツには分からなかった。それ程までに影も形も無く傍らへと現れていたし、そもそも先の発言で心は十分乱されていたから、重ねられた驚きに為す術なんて存在しない。
だからミツは状況を理解できず、おろおろと取り乱していた。何が起きた、何があった、どうしよう、どうしよう。
ここに来て、一周回って身の危険をすら考えてしまう始末。少しばかり、涙目にもなってしまった。
ヨルは、そんな子供を応鷹に抱き締めた。緩く、弛く、ただ朗らかに。
「大丈夫大丈夫! お姉さんに任せなさい!」
ここでもまた、驚きだ。しかも幾分に心地良いのが、なお驚き。
ミツがそうして、呆気にとられていると、ヨルはあっさり抱擁を解く。たかだか数秒の出来事で、何が起きたか分かったものじゃないから、感触も何も身体には残らない。
「…………っあ」
「よし、もうオーケーだね! 次はハチノスくんか、待っててね~~!」
妙に気分を高くたもって、ドヤドヤ出ていくヨルの足取り。閉める扉の音まで、心なしか軽やかに。
残されたミツは、一気に手持ちぶさたへと追いやられる。気付けば、心の方は随分と落ち着きを取り戻していて、洗い残しの食器にも気を配れるようにはなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!