第2章

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逆に身体は、少々難しくもある。何か、温かみが、感覚が。 「━━兄さん」 ちゃんと抱き締められたのは、いつ以来だったか。ミツにはただ、その感触だけが名残惜しかった。 夜が更け、街の灯りはぽつぽつと見える。その数は少なく、場所もまちまち。 電気と電灯をセットで拵え、何事もなくに使って過ごせる家柄は贅沢な部類だ。特にあの大惨事の後、未だ焼け跡だって新しいゲットーの町並みに、こうして明かりが落ちるだけでも奇跡だ。 これも、きっとにーちゃんのおかげなのに。地面に座って、ハチはぼんやりと考える。 恩を忘れる、ということは無いと思う。この街、このスラムの端くれにぶら下がるゲットーを造ったのは、半ばにーちゃんの功績だ。 よぼよぼの浮浪者や孤児、つま弾きにされた変わり者や他所から逃げてきた女の人。事情も様々だけど、共通しているものがひとつ。それはどうしようもなく、みんなが弱者だということ。
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