第1章

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ピクリと、空気の反応する感覚。ハチの視線が、久々に龍二郎の方へ向く。 龍二郎はあくまでも速度を落とさない。快活そうにほくそ笑む顔も、取り立てて隠そうとせず。 むしろ、積極的に見せて行こう。その裏側、言葉の真意を見せぬように。 「気になる?」 「……別に」 「意固地にならなくて良いよ。元々言うつもりは無いし。正直、今後これを伝えるべきかどうかも迷う」 「何でさ? てか、そんな言えない事、兄ちゃんに限ってあるわけない」 「本当に?」 「は?」 本当にそう思う? 龍二郎は大きく、強く杖を打ち下ろす。T字型の取っ手、無骨な石突き、固いコンクリートの感触がそのまま掌にじんわりと残る。 龍二郎は足を止め、後ろを振り返る。すると、どうやらハチとの距離がまた少し開いている様で、彼の幼げな体躯が一回り小さく見えた。 警戒しているのか。それもある。けれど、じっと龍二郎を睨み付ける二つの瞳は、どこか不安な様子で移ろいでいる。
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