第1章

15/91

51人が本棚に入れています
本棚に追加
/614ページ
龍二郎は、変わらず微笑を湛えた。ハチの真正面から、まるで慈悲でも与えるように。 あるいは、慈悲という意味すら、無化するように。 「重ねて言うよ……彼は死者だ。だから口はきけない。だから、もう一つ聞くね。 君らは本当に、ーー彼にとって大切な存在だったのかな?」 龍二郎は、そう言った。 「ッ!!」 案の定、ハチの両目は怒りに揺らいだ。身体中にも力が入っているのか、取り込む空気の多さに胸が膨らむ。 罵倒か悪言。もしかしたら実力行使の何れかを、ハチは考える。考えただろう。 そのどれかーーもしくは全てを押し付けようと、ハチが一歩を踏み出した。そして、直後。 何かが目の前に降ってきた。どかっ、と。なんとも重たい音だった。 「な……、は!?」 何処から降ってきたか、それを考える暇はハチに無い。ハチと龍二郎と、お互い程よく開いた距離の丁度真ん中に、その音の主は落ちていた。
/614ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加