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龍二郎は、変わらず微笑を湛えた。ハチの真正面から、まるで慈悲でも与えるように。
あるいは、慈悲という意味すら、無化するように。
「重ねて言うよ……彼は死者だ。だから口はきけない。だから、もう一つ聞くね。
君らは本当に、ーー彼にとって大切な存在だったのかな?」
龍二郎は、そう言った。
「ッ!!」
案の定、ハチの両目は怒りに揺らいだ。身体中にも力が入っているのか、取り込む空気の多さに胸が膨らむ。
罵倒か悪言。もしかしたら実力行使の何れかを、ハチは考える。考えただろう。
そのどれかーーもしくは全てを押し付けようと、ハチが一歩を踏み出した。そして、直後。
何かが目の前に降ってきた。どかっ、と。なんとも重たい音だった。
「な……、は!?」
何処から降ってきたか、それを考える暇はハチに無い。ハチと龍二郎と、お互い程よく開いた距離の丁度真ん中に、その音の主は落ちていた。
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