第3章

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「やはり現状、〈アルケー〉の最先端を行くのはネルソン博士ですね。またもや、と言いますか、新しく闇属性の結晶石を作り上げたみたいでその手の研究機関から凄まじく注目されているのだとか」 「なんかまた結構な話だな。しかも少しも羨ましくない」 あんな性格じゃ、な。へし折られた木材に、添え木と釘を打ち込みながら、星純は言う。話題に上がった当の本人は、もうずっと前に姿を消していた。 多分さっき、青髪と一緒に暴れていた時、食い逃げ覚悟でバックレたのだろう。心なしか、見覚えのある丸い巨体を見た気もするし。 まったく、色々と唐突な話だ。少しばかり嘆息するように、星純は辺りを見回す。するとまた、今度は別の異変に気付いてしまう。 「そういえば、クレアはどこ行った?」 いつの間にか━━といっても、派手に暴れたその喧騒中に、としか考えられないけれど━━居なくなった人影が増えている。リリーの傍らに居た筈の、ダウナーな風情を煽る赤い娘。 こちらは本当に、意識もしていなかった。影の如くに消えて無くなるとは、何時かの構えも所作も感覚できなかった大弓の出現と、似たようなにおいを感じる。 「クレアには別の用事を言い渡しました。彼女、何も食べてませんし、これは食い逃げではないですよね?」 「まぁ、そりゃそうだけど……てか、用事?」 正直、悪い予感がする。何を言いやがったのかこのイインチョーは。 訝しむ星純に、リリーは肩をすくめながら答える。「大した事じゃないですよ」と。 「単純に、さっきの話の続きです」 「続き?」 「ほら、例の殺人鬼の━━」
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