第3章

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幾ら日が高くとも、薄暗がりの路地というのは出来上がる。それがこの王都となれば尚のこと。 クレアはそうしたあわいを歩く。昼も夜も無いような、微かな光が頬を撫でた。 「…………多分…………この辺り」 ひとりごちる台詞は誰に聞かれることもない。小さく響いて虚空を満たし、そのまま消えて無くなっていく。 細い路地の間には、何もないし誰もいない。精々が近場の飲み食い処から出た生ゴミだったり、それを漁る虫や小さなマウシーみたいな、小動物だけ。 空気が静かすぎる、と感じなくもない。けれどあまり、路地裏を歩く経験もあまりないから、雰囲気としてはきっとこんなものなのだろう。 『クレア、ひとつお使いを頼まれて下さい』 何時もの軽やかな調子で宣う、彼女の言葉を思い出す。クレアは毅然と進みながら、ことさら細やかな声調で復唱する。 「…………殺人鬼を、調子に乗せない…………だからゴロツキ、チンピラさん…………要注意喚起…………」 話の筋は単純、消えた犯罪者またはその予備軍が、これ以上増えないようにすること。限りなく不穏でキナ臭い事態に、まずは先手を打って出る。状況を動かすには、早い方が良い、というわけ。
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